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中学生になって、娘はほんと生意気になったんです。わたしの上手をいくから、こっちもつい乗せられちゃって、ムカッとして、火に油を注いでしまったりします。

でも、あの子は、保育園の時から私の夫の前で女を出したりして、わたしは「女ってほんとに嫌だな」と、思っていました。そんな風にして、自分が女であることと距離があるまま、わたしは生きてきたんだと思います。結局、それがわたしの正体なんです。だから、それがばれないように、いつも人の気持ちばかり考えているのかもしれません。他人のことを考えては、自分の「女だった」「もう大人だった」「今でも自立できていない」現実から離れてしまうんです。

だって、自分で選んで女になったわけじゃありません。毎月身体がしんどくて、総合職なのに「女だから」とお茶を入れないといけなかった新入社員時代のつらさを経て、気づいたら逃れようもなく大人の女だったらしい自分を持て余して、あなたはここまで生きてきました。だから、出産の時も、わたしは旦那にきちんと立ち会って、この逃れようのない女の苦しみを見てほしかったんです。本当は、いつもあなたがしているように、旦那には立ち上がることを助けてほしかったんです。

看護師さんが「出産のときは、好きな精油の香りをたけますよ~」なんて、優し気な提案をくれたけれど、出産なんて痛いに決まってるんです。わたしはうんと怖がっているから、必死に強がって「どのみちつらいんだから、結構です!」と答えたのに、そんな牛乳にはった膜みたいなあなたの強がりを、旦那はいとも簡単にスルーして、小さな女の子みたいな笑顔で出張に出かけてしまいました。

あなたは、男気を見せつけて、どうだ!と踏ん反り返り、生まれて初めて堂々としてみたかったんです。母の目に怯えたあの頃には、決してできなかったことを、ついに成し遂げたかったんです。でも、実際には産後はあまりに大変で、男気のない夫はとても怖いし、話が通じる気配がありません。だから、男気を出して母親になろうとしながら、わたしはあの母親の目に怯え続けたんです。

母親の目に怯えながら、まだ女になれないあなたの前で、娘はどんどん女になっていくから、焦ってしまうんです。身体の変化でお医者さんに呼び出されたり、そういえばもうすぐ高校受験で、わたしはいつまでも彼女のお荷物なんです。

それを知ってか知らずか、夫は急に会社を設立すると言い始めて、昨晩なんて泣き落としでした。だからちょっと、あなたは白気たんです。「私を置いて行かないで」と言いそうになったけど、男気で生きてきた私にはそれは無理でした。代わりに娘が父親を励ましていて、周りを見渡すと、わたしには父親がいないんです。結婚した当初には、時々ちゃんとわたしがつくった家庭には父親がいて、わたしは少しだけホッとできたのに、それすらわたしは奪われてしまったんです。もうずいぶんと、旦那の顔を正面から見ていないことを、今思い出してしまいました。

この継ぎ目がない生活の中で、そのうち頭に霧がかかったようになって、根が生えたようにソファーから動けなくなって、それでも「生まれてきてごめんなさい」と母に謝りながら、今朝起きて鏡を見ると、顔がついにわたしを忘れ始めていました。

父親も夫もいない家庭の中で、娘はまるで妻みたいで、わたしは下の子に支えられています。息子だけがわたしに「今日もかわいいよ」と言ってくれるんです。困り顔のわたしの手をとり、黙って手を繋いでニッコリしてくれるんです。息子は純粋で頼りになります。島流しみたいなこの時の流れに、一緒に巻きこまれてくれる息子は、出口のなさを甘酸っぱく知らせてくれて、あなたはふとフレンチフライでも口に詰め込みたくなるんです。

今日も職場でのみんなの会話にはうまく入っていけないけれど、電話で話した義母の声のトーンを思い返して気にするわたしは優しいから大丈夫だし、生き別れた兄弟を探すかのように、鍋を磨き続けたわたしは、まじめでいいって、思うんです。そんなわたしのところに、下の子が来て「ママ、大好きだよ」って、何度も言ってくれるんですが、その声が遠いんです。「ありがとう」と言ってみるけど、そんな風に人に親切にしているときにも「自分は演じているだけだ」とわかってしまうんです。だってそこに、もう何の感情も湧いてこないから、楽なんです。「きっと淡々と生きるってこんな感じだ」と思いながら、声はでていなくても目の奥が笑っている先生の前で「こういう人に、隠し事はしにくいな」と、恥ずかしくてもじもじしたんです。

以上、機能不全家族のかなりひどい例、かつ、よくある性的トラウマの例(上記は、他にも~の例、と表せますが、今回はここまでにします)を、物語として書きました。読んでいて、息が詰まりませんでしたか?